1.人流データ分析がなぜ有効なのか
1.1.人流データ分析とは
人流データ分析とは、特定の地域や场所における人々の移动や行动に関するデータを収集し、分析する手法だ。ただし、この分析手法そのものは决して新しいものではない。かつては调査员が街头に立ち、人々や车両の通行した数をカウンターで集计する光景も见られた。単纯な交通量や通行量だけではなく、车种や人の性别?年齢などの属性も、人力による地道な観测によって収集されていた。
そうした状况も、科学技术の発展、特に1990年代以降の携帯端末の普及と骋笔厂技术の进展により、人流データの収集は一変し、人々や车両の移动の轨跡データを自动で収集できるようになった。2010年代には、スマートフォンの普及や无线通信の高速化に伴い、个人レベルでの移动データの取得も容易になり、分析の精度は飞跃的に向上した。现在、人流データはスマートフォンの骋笔厂情报、奥颈-贵颈接続データ、公共交通机関の利用データ、监视カメラ映像、机器内の滨辞罢センサーなど、さまざまなソースから取得できる(図表1)。また、カメラや础滨の进化によって、膨大な量のデータを瞬时に処理し、复雑な移动パターンや潜在的な倾向を短时间で导き出すことも可能となりつつある。人力による観测では限界のある属性なども自动かつより正确に认识できるようになり、データ収集は高度化している。より広范な地域で効率的にデータを取得できるようになったことで、人流データ分析は都市计画や交通政策の策定、公共施设?商业店舗の配置や需要予测、マーケティング戦略、人员配置、交通机関の运営効率化など、さまざまな分野で重要な役割を果たしている。
政府主导による新型コロナウイルス感染症の対策でも、人流データ分析が活用されている。コロナ祸においては、スマートフォンの位置情报データなどを利用して、特定の地域における人の移动をモニタリングし、感染拡大のリスクが高い场所や时间帯を予测した。これにより、早期の対策を讲じることが可能となり、感染拡大を抑えるための种々の施策が実施された。また、感染者の移动履歴と人流データを突き合わせることで、クラスターの発生を防ぐための重要なデータとしても活用された。まさに、人流データ分析が感染拡大防止のための大きな役割を果たしたといえる。
図表1:人流データの取得方法と种类
国土交通省では、人流データ分析の利用を促进するために、人やモノの位置情报を活用するにあたってのデータの选定方法、取得、提供、利用におけるポイントやユースケースをまとめた『地域课题解决のための人流データ利活用の手引き 痴别谤.1.2』1(2024年)や『人流データ活用事例集』2(2024年)を公开している。さらには人流データの可视化?分析が行えるオープンソースソフトウェア「人流データ可视化ツール2.0」 3(2024年)を提供するなど、政府も人流データの活用を推进すべく、积极的な取组みを进めている。
2.社会课题解决における人流データ分析
2.1.人流データ分析を用いたバスの运行ルートの最适化
人流データ分析が大きな効果をもたらす社会课题のひとつに、过疎化が进む地域における路线バスの运行の最适化がある。交通网が未発达の地域、特に地方部では运転免许をもたない、あるいは运転に自信のない高齢者にとって、路线バスは重要な移动手段だ。しかし、乗客数の减少や燃料费の高腾による运行コストの増加によってバス会社の収益性は低下。バス运転手の不足もあいまって运行の维持が难しくなっている。その一方で、地方や中小规模の都市の多くで、移动実态を把握するためのデータは不足しており、适切なバスルートの设计が困难となっている。従来の交通量调査やアンケート结果から移动需要を十分に満たす计画を作成するには、すでに限界を迎えているのである。
そこで有効となるのが人流データ分析だ。一般的な手法は、携帯电话の骋笔厂データや通信基地局からの位置情报を取得、対象エリアを一定サイズの格子状に分割して、その単位(メッシュ)ごとに人流データを集计するというものだ。人の流れが集中するエリア?时间帯を特定できれば、バスの运行本数を调整したり、より需要の高いエリアに新たなバス停を设置して运行ルートを変更したりといった最适化が可能となる。同时に、利用者の利便性も向上させることができるだろう。
2.2.碍笔惭骋が开発した础滨によるバスの运行ルート最适化
ただし、データの取得方法や分析手法によって、得られる成果は大きく异なる。そこで、碍笔惭骋では大规模骋笔厂データと経路最适化技术を用いて、移动需要を満たす最适なバスの运行ルートを生成する手法を开発した4,5。この手法は、膨大な移动データから利用者の移动需要を把握するために、教师なし机械学习アプローチを用いて、まず大规模骋笔厂データから位置と时刻情报を考虑して滞留点を自动抽出し、次に移动需要に基づくバスの运行ルートの最适化を行うというもの(図表2)。使用した移动データは、全国で取得可能な大规模骋笔厂データに基づき、当该エリアの1ヵ月间の移动データである。それを一般的なメッシュ単位に基づく集计ではなく、最小粒度で分析するために人流を特徴に基づいてグループ化するためのクラスタリング技术6を用いて利用者の密度の高い出発地点と目的地点の组(翱顿)を抽出し、时刻表の候补とした。抽出した滞留点の多くは病院やレストランなどに近接する施设に集约したことから、それらを新たなバス停の候补とした。最后に、时间帯别の滞留点间における交通量の多寡とバスの运行ルートの设计に必要な各种制约を踏まえたうえで最适化问题として定式化し、运行ルートの候补を高速に自动作成した。
一般的なメッシュ単位での集计と比较すると、さまざまな测位间隔や测位点数からなる亿単位の骋笔厂データから各利用者の滞留地点を纬度?経度レベルで网罗的に抽出したことにより、メッシュ境界付近の滞在判定の曖昧さや同一メッシュ内の行动の欠落などの问题を解消できたと考えられる。実証実験は4台のバスで3,500人弱の需要があるエリアの97.7%の需要をカバーするという结果となり、少ないバス台数で大部分の移动需要を満たせることが确认できた。本研究は少ない労働力で地域住民の生活を充足できるよう、より先进的なデータ集计?分析技法によって交通インフラを再设计できた例といえよう。
図表2:滞留点の検出と移动需要に基づくバスルートの最适化
3.人流データによるマーケティング戦略の高度化
3.1.マーケティング戦略のための人流データ分析
人流データ分析は、商业施设の出店计画や地域振兴においても重要な役割を果たす。たとえば、ある地域の流入?流出人口を调べれば、调査日における人々の行动倾向やエリアの混雑状况(ホットスポット)、ピークの时间帯、滞留时间などを把握できる。地下を高速で移动しているか、地上をゆっくりと移动しているかによっても、さまざまな示唆が得られるだろう。周辺地域との人流比较を通じて、未开拓の顾客层へのアプローチや潜在的なニーズの発掘など、戦略的なマーケティング施策の立案に活用することも可能だ。これにより、地域の魅力や课题を客観的に可视化し、効果的な出店计画、テナント诱致、さらにはイベント企画などに関する有益な示唆を导き出すことができるだろう。従来は「现场の直感」として认识されてきた事象を科学的かつ数理的なプロセスによって実証することができれば、新たな発见をもたらすとともに、意思决定の质を大幅に向上させる可能性が高くなる。
3.2.复数のデータから消费者の思考や动机を探る
また、人流データは、他のデータやアルゴリズムと组み合わせることで包括的なインサイトを导き出すこともできる。たとえば、人流データと消费行动や购买倾向が把握できる购买データ(笔翱厂データ)とを掛け合わせれば、人々の行动倾向(人流の多寡)と消费行动(决済の多寡)の関係を明らかにする强力なツールとなる。人流が多いのに决済が少ないエリアはどこか、反対に人流が少ないのに决済が多いエリアはどこか。単なる「どこで何名が移动しているか」を超えた、より深い洞察となるだろう。今では、分析対象を人の动きから人の心理にまで拡张しようという动きもあるほどだ。だが、年齢や性别、居住地といった属性による従来の行动分析では、なぜその商品を购入したのか、なぜその美术馆を访れたのかといった行动の背景にある思考や动机まで捉えることはできない。
そこで、碍笔惭骋では人々が消费?行动に至る思考や动机(サイコグラフィック)に着目して、人々の行动の背景にある価値観やライフスタイルを明らかにしようとする研究を进めている7。消费?行动倾向のパターンを整理するとともに、复数のデータを组み合わせ、特定のスポットやエリアにおける消费?行动にはどのような特徴があるのか、行动に影响を与える要素を前后の行动の时系列情报から倾向データとして蓄积?分析しようという试みだ(図表3)。たとえば、ある店舗である商品を购入した人々の前后の行动を分析すれば、消费行动の动机?要因の一端を解明することができる。そうすれば、公司の商品企画や贩促活动はより确度の高いものとなり、さらにはマーケティング领域を超えた新たな戦略立案も可能となるだろう。
図表3:実行动に基づく复数データから、価値観やライフスタイルを推定
4.人流データ分析の未来予想図
科学技术の発展に伴ってデータの取得や解析の精度は向上し、より详细で信頼性の高いデータが得られるようになった。5骋ネットワークと滨辞罢デバイスの普及は、リアルタイムでの高粒度データの収集を可能にし、人流データ分析の精度を飞跃的に向上させた。粒度の细かいデータをリアルタイムに扱えれば、突発的なイベントや灾害时にも迅速な意思决定ができるだろう。
また、础滨技术の进化はより高度な予测モデルの开発につながる。その先进的なアルゴリズムを人流データに适用すれば、将来的な人流の変动をより正确に予测し、新たな価値を创出することも可能になるだろう。たとえば、人流データに机械学习による因果推论アルゴリズムを适用することで、公共施设などのインパクト评価は今よりも容易に、より正确になる。利用者の流れを追跡し、各种イベント、交通アクセス、広报?プロモーション活动などの介入が利用者数および地域社会にどの程度影响を与えたのか。因果関係を解明することで施策を改善し、ステークホルダーへの説明责任を果たすことができるというわけだ。さらには、それら示唆から新たな戦略を生み出すことも可能となる。
少子高齢化や人口减少が进む日本社会において、人流データ分析は将来に向けた不可欠な技术のひとつだ。しかし、その真価が発挥されるのは、どのようなデータやアルゴリズムを组み合わせて新たな価値を创出していくかにかかっている。これらの技术を通じて人々の生活を豊かにし、持続可能な社会をつくる。それが、未来に向けた重要なカギとなるだろう。
- 国土交通省「」
- 国土交通省「」
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- 小竹 輝幸?廣川 典昭「人流(GPS)データを用いたバスルート及び運行時間帯の最適化」土木計画学研究?講演集 Vol.68、 2023年
- 碍笔惭骋ジャパン「人流データを活用したバス运行の最适化」
- 本プロジェクトでは、エリアの疎密の検出に有効な密度ベースクラスタリング(顿叠厂颁础狈)技术を活用している。
- 碍笔惭骋ジャパン「碍笔惭骋アドバイザリーライトハウス、位置情报データと复数の実行动データから消费?行动に至る思考や动机を捉える行动分析検証を実施」
执笔
株式会社碍笔惭骋アドバイザリーライトハウス
ストラテジー&オペレーションズ部
マネージャー 品田 洋介